本コーナーではコラムをはじめとして、きもつきを題材としたさまざまな読み物を用意しました。どうぞじっくり、ゆったりお楽しみください。
コラム(アーカイブ)
ハレ主義とケ主義
2012.11.07(水曜日)    有留修(ありどめ おさむ)
きもつき情報局のトップページの最上部にあるキャッチコピー、みなさんのなかでどのくらいの方がお気づきになっているでしょうか。
 
ニッポンの大いなる隅っこにある町、鹿児島県肝付町からお届けする飾らない『ステキな日常』というのがそのコピーです。
 
文字が小さいので目立たないといえば目立たないのでしょうが、このトップページにあるキャッチコピーはサイトの性格とミッション(使命)を読者・視聴者に伝えるたいへん重要な文言です。ですから、サイトがオープンする前に「ああでもない、こうでもない」と数ヶ月頭を悩ませ、仲間にも相談しながら「難産」の末に生まれたのがこの文言でした。
 
結局、きもつき情報局がいちばん伝えたいものは何なのか。それがこの「飾らない『ステキな日常』」なのです。
 
換言すれば、「ハレ」よりも「ケ」を優先する、といえばいいでしょうか。
 
どちらに力点を置くのか
 
この「ハレ」と「ケ」という概念、調べてみると民俗学者だった柳田國男によって「見出された時間論をともなう日本人の伝統的な世界観のひとつ」(ウィキペディア)とされています。
 
ざくっと説明すると「ハレ」とは普段の暮らしを超えたところで行われる祭りだとか儀礼などの「非日常」を指し、「ケ」は「日常」を指します。
 
実は、この「ハレ」と「ケ」のどちらに力点を置くかが、地方の活性化にとって非常に重要な意味を持ってくるというのが、ぼくが帰国以来、ずっと考え、まわりの人々に訴え続けてきたことです。
 
つい先日もある方々に問いかけてみました。
 
「もしあなたが、(たとえば)東京にいる人たちに田舎に来てもらおうと思ったら、田舎の何を訴えますか」
 
するとそのうちの何人かが答えてくれました。
 
「内之浦のえっがね祭りでしょうか」
 
「高山のやぶさめでしょうね」
 
想定内の回答でした。
 
要するに、地元の人たちにとっての「ハレ(非日常)」である祭りや特別な行事でもって、よそから人を呼び込もうというわけです。
 
繰り返します。まったく想定内の回答です。
 
yabusame2012-cap.jpg
ブータンでも事情は同じ
 
なぜそういう回答になるかというと、地元の人にとって価値があると思えるのはあくまでも「非日常」である「ハレ」だからです。普段の暮らしである「ケ」の部分は、あまりに当たり前すぎて、彼らからしてみればほとんど価値のないものと考えても仕方がありません。
 
もちろん、例外もあるのでしょうが、それが一般的だといえます。
 
これとの関係で実に興味深いレポートがあります。しばらく前に日経ビジネスオンラインに連載されていたコラムで、タイトルは「ブータン公務員だより――幸せの知恵を探そう」。筆者は御手洗瑞子(みたらい たまこ)さんといって外資系コンサル会社を経てブータンに渡り、そこで首相フェローとして働いた経験を持つ人です。
 
ブータンといえば、しばらく前に若くてステキな国王夫妻が来日して、一種のブームを巻き起こした南アジアの小国です。にもかかわらず、1970年代の初めにGNH(国民総幸福量または国民総幸福感)と呼ばれる概念をつくりだし、GDP(国内総生産)が代表するモノの増大による幸福に替わる「精神面での豊かさ」を基準にして社会を築いていこうという、新しいものさしを世界に提供したことで知られています。
 
そのブータンでの体験をもとに彼女がつづっていたコラムの中で特に気になったのが、次の箇所です(このほかの記事も非常に興味深い内容なので、ぜひ、時間をとって読んでみてください)。
 
 
それを短く要約すると、こういうことです。
 
ブータンの経済にとって重要な位置を占める観光。その観光を促進するうえで、ブータンの人たちは年2回行われるお祭りをメインに観光客の誘致を図ってきました。その結果、ブータンを訪れる観光客の流れには、そのお祭りの時期をピークとして、その間には大きく落ち込む谷間があったのです。
 
butan-fest-cap.jpg
しかし、調べてみると、たとえばヨーロッパからやってくる観光客は何もお祭り目的でブータンを訪れているわけではなく、「手つかずの自然」に興味を持ち、日本人観光客の場合は「幸せの国・ブータンの暮らしそのもの」に関心を抱いているという調査結果がありました。
 
そこで筆者は、これまでのようなお祭りという「ハレ」の部分にフォーカスするのではなく、ブータン人の日常という「ケ」の部分にも力を入れた観光振興を提案し、その結果、谷間の部分の落ち込みが2011年は小さくなったと記事には記されています。
 
butanhouse-cap.jpg
要は、これまで述べてきた日本の地方の人たちが思っていることと同じことをブータンの人たちが思っていたということです。
 
「オレたちの、私たちの日常には何の価値もない。だから観光客を呼び込むには祭りでやるしかない」
 
どうですか?(地方にお住まいの場合)みなさんの地域でもそういう考えの方、たくさんいるんじゃないですか?
 
「ケ」の魅力を伝えるのが私たちの使命
 
繰り返しましょう。地方に住む人々にとって日常はあまりに当たり前すぎて、ほとんど何の価値も見いだせないわけです。だから、どうしても「ハレ」を重視することになる。いわば、「ハレ主義」とでも呼べる、ぼくから見ると、どうも偏った見方です。
 
ぼくがこの「きもつき情報局」で仲間といっしょに伝えたいのは、きもつきという土地にある、あくまでも「ケ」の部分なわけです。いえいえ、「ハレ」の部分を否定しているわけではありません。その証拠に、情報局では15回にわたり、きもつき最大のイベントである「やぶさめ祭」を詳しくレポートしています。
 
それはそれで大事だとは思います。
 
でも、そうした「ハレ」の部分は1年のうち、あるいは人々の暮らしの中のどのくらいの割合を占めているのでしょうか。せいぜい、年間に数十日といったところではないでしょうか。
 
それだけではとても地域を活性化するためのエンジンとはなりません。
 
だったら何に着目し、何を活かせばいいのか。
 
幸い、ぼく自身は18歳のときに田舎を離れて以来、東京以外にもアメリカのシアトルやワシントンD.C.、さらにはロンドンや上海という世界の主要都市で10年以上にわたり、暮らしてきました。その意味で、地元に生まれ育った人間ではあるけれども身体と心の半分以上はすでに「よそ者」としてのそれになっている感じがしますので、ちょっとかっこよくいえば「ハイブリッド型田舎人」ということになります。
 
その「ハイブリッド型田舎人」からしますと、小さいころにあれだけ嫌だった田舎の暮らしが、とても愛おしく、ステキなものに見えてきたのです。
 
yanaidani-cap.jpg
今でも思い出します。確かあれば2006年に病気の母親を見舞うために上海から一時帰国したときのことです。ほとんど自然というものが近くにない上海での暮らしがそう思わせたのか、田舎に、それこそ「普通」に存在する山や川、海といった自然に感激し、そしてわが家の畑に裸足で立ったときの感動にはすごいものがありました。
 
「わぁー、オレは確実に自然とつながっている!」
 
そういった環境が日常にない人から見れば、自然との距離が非常に近い田舎の日常にはたくさんの宝物が詰まっているわけです。ブータンの例が示すとおり、そこに着目して、それを活かすプログラムをつくり、そしてそれをきちんと情報発信していけば、日常、つまりは「ケ」が立派な売り物になるわけです。
 
ぼくらがやっている「きもつき情報局」は、その方向に向けた小さな一歩なわけです。きもつきにあるステキな日常を拾い上げ、全国そして世界の人々――特に自然環境に対する関心が高く、ロハス的な生き方を志向する人たち――に向けてそれを伝えたい。そして、それを読み、見てくれた方の中から「へぇ、きもつきって面白そうだね。今度行ってみようか」と思ってくれる人が出てきてほしいのです。
 
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その意味で、これからも「きもつき情報局」は「ハレ主義」ではなく「ケ主義」を貫き、きもつきの日常に潜むさまざまな美しさ、楽しさ、尊さ、面白さをみなさんに伝え続けていきたいと思います。
 

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